トマト対談 第3回
第三セクターで運営されていたトマト農園を引き受けることになった崎永海運。
離島・高島の産業として守り育てたいという思いとはうらはら、一年目は予想を大きく割り込む赤字。
社員総出での営業活動、畑での格闘、荒波の航海が数年続きました・・・。
トマトの売り上げが思うように伸びない中、事業そのものを見直そうということはなかったのですか?
- 崎永:
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もちろん、見直しはありました。ただ、それを上回る熱い思いが現場にあったんです。農園と本社の間でやりとりも重ねていましたし、現場のメンバーの苦労や頑張りを知っていたからこそ、私たちも「厳しいかもしれないけどなんとか続けたい」とう思いが大きかったです。また、会社としてトマト事業を引き受けてた「責任」ですね。トマト産業がなくなれば、島の産業がまたひとつ減ってしまう。あの頃は、高島を無人島にしてはいけない!と強く思っていました。
- 溝江:
私も含め現場のスタッフは「とにかく自分たちは美味しいトマトを作りたい、絶対につくってみせる。」という思いを当時の社長(現会長)にぶつけました。本社の方でも営業活動を支えてくれていましたし、諦められるわけがありません。
- 崎永:
溝江さんのトマトに対する情熱は本当にすごいですよ。トマトの話になったら止まらないんです(笑)
たかしま農園のトマトは濃くて甘いというのがもう定着して来ていると思います。この風味はどうやって生まれるのですか?
- 溝江:
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実は、農園では、実ったトマトの約半分を成長前に摘果(いわゆる間引き)してしまうのです。
え、半分もですか?
- 溝江:
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そうです。半分も、と思われますよね。ですが、あの、濃いうまみと甘さがぎゅっと濃縮された実は、摘果なしでは生まれないんです。私が就任してからはこの摘果に力を入れています。スタッフには「自分たちが作りたいものを残せ」と言っているんです。A品になるトマトを残していくことで、木の性質をあげ、甘いトマトを実らせるんです。
時には、花の段階で摘むこともあるんですよ。残った花に養分を集めて、いい実をつける花を育てるのです。そうしなければ「たかしま農園のトマトは甘い」信じて買ってくださるお客様の期待を裏切ってしまいます。 - 木下:
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まだ入社前のことですが、ここに誘ってくださった先輩が、定期的にトマトを贈ってくださっていたんです。
実は・・・あまりトマトは好きではなかったんです。
そうなんですか。それなのになぜトマト事業部に就職されたのですか?
- 木下:
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ここのトマトは違ったからです。なんと、トマトが苦手な自分でも美味しく食べられたんです。甘くてコクがあり、実がギュッと詰まっている。これまで食べいていたトマトは何だったのだろうと大変衝撃を受けました。トマトのシーズンは先輩から届くトマトを楽しみにしていました。だから、先輩にトマト事業部に誘われた時は、迷わずO.Kしました。
- 溝江:
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僕らの情熱が木下さんの転職を決めたと言ってもいいのかもしれませんね(笑)
水を少なくしているから濃くておいしいトマトができるのだろうと思われているのですが、それだけでなく、実のなる回数そのものも抑制し、さらに摘果することで、トマトの質を上げているのです。
養分を一つの実に集中させることで、たかしまフルーティートマトの味になります。
半数のトマトが摘果されるけれど、摘果されたトマトの甘さや美味しさの分まで、残りの実にギュッと凝縮されているイメージですね。
- 溝江:
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そうですね。摘果、そしてあとは島特有の条件と上手くつきあうことだとおもいます。何をするにもコストがかかるという他に、地形的な特長があります。
高島は、とてもコンパクトな島で山がないんです。つまり、風がどこからでも当たる島なんです。台風などが来たときはもろに風の影響を受けてしまうのです。例えば、本来ならハウスにビニールを張る時期だったとしても、台風や悪天候の予報があれば、貼ってもすぐに破れてしまうので見送ることになるのです。
台風や暴風でビニールを張れないのはわかりますが、悪天候は長くは続かないと思います。その数日のずれが大変なのですか?
- 溝江:
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そうなんです。ビニールを貼るのが遅れれば、苗を植える「定植」の日にちがずれますよね。苗は、自分たちで育てているのではなく、苗専門の苗屋さんから仕入れています。定植時期をきめて、スケジュールを逆算して発注しています。予定日にちょうど良い成長具合になるように苗屋さんの方で調節していただいています。だから、定植が遅れるとひょろっと伸びてしまうんですよ。また、雨を大量に吸い込んだところに苗を植えてしまうと一気に水を吸ってしまい、水分を絞ることを重要視しているうちの農園には条件が悪くなるんです。常に私たちは天候に左右されているんです。定植する1ヶ月前から神経質になっています。9月~5月まで、天気のことはものすごく気になりますね。
コンパクトな離島ゆえに、水源も山もなく、それが現場の難しい課題にもなっているのですね。逆に、良いことはないのですか?
- 溝江:
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もちろんあります。風が当たりやすいのと同じく、太陽の光もよく当たります。気候は温暖で、霜が降りません。島唯一のトマト農家なので、病気や害虫が発生して影響を受けることはありません。どれも高島ならではの恵みですね。
いいこともうかがえてなんだかほっとしました。(笑)
- 崎永:
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現場でも努力を続けてくださったおかげで、業績も徐々に回復していきました。本社のスタッフによる営業活動も少しずつ実を結びはじめていました。
レストランへの営業で知り合った築町の「ヒロリシャス」の大石さんは、今もおつきあいがあります。大石さんは、とても野菜が好きな方。お店のメニューも、地の野菜を美味しく食べさせてくれるお店として評判です。大石さんは、実際に農園にも来て見学されましたし、青いトマトを持ち帰ってジャムを試作してくださったりもしたんです。嬉しかったですね。昨年は、ファンクラブの特別イベントで、トマトのフルコースを提供してくださいました。
ヒロリシャスさんでたかしまフルーティトマトのお料理を食べたことがあります。厳しい時代につながったご縁で生まれたコース料理だったんですね。
- 溝江:
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そんな、つらい時期を乗り越えて・・・数年掛けてこれだったらなんとかなる、と思えるまでになりました。
- 木下:
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そんなタイミングで入社したのが私です。私は、トマトをはじめ、たかしま農園の全ての農産物の販売にかかわる営業を担当しています。おいしいトマトを農園の方で作ってくれるから、営業はやりやすい方かと思います。
今はトマトだけでなく、メロン、安納芋、ニンニクなども生産しています。作っている農産物の販売戦略を立ててアピールしていくのが私の仕事です。 - 溝江:
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木下さんには、作付面積の増設にともなう際の補助事業申請や、面積拡大、補助事業対策なども併せてやってもらっています。そのおかげで、作付け面積も増やすことができました。
- 崎永:
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現場でおいしいトマトを作ってくれたこと、営業努力もあり、10年を迎える頃には事業が黒字転換しようとしていました。木下さんが補助事業として申請するものを整理してくれたこともあり、ハード面の希望も少しずつ整ってきそうな見通しが立っていました。今後は、卸売だけでなく、ギフト需要に応えられる直売の仕組みも整えたいと思っていたので、贈答用の箱をリニューアルしようということになったんです。
パッケージのリニューアル担当になったのが、現社長の北川と私でした。パッケージデザインといえば、印刷時にまとめてやってもらうことばかりだったので、あらためて「デザインだけを外注する」というのは初めてのことでした。友人からすすめられ、以前から面識のあったデザイン事務所に相談をしに行ったのです。