トマト対談 第2回
崎永海運のトマト事業、いよいよ始まったわけですが、これまでに無い事業分野と言うことで苦労されたことなどありますか?
- 崎永:
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それはもう、たくさんありましたね。まず、正直なところ、1年目の赤字が大きくて、これは大変なことになったと。もともと赤字の事業だったわけですが、少しは良くなるのではないかと思っていましたから、あせりました。最初の2年間は事業を引き受けたことに後悔すら感じていたのではないかと思います。
- 溝江:
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トマトのできも良くなかった。崎永海運の事業となってから約2年間は「かぼちゃトマト」だったんですよ。
かぼちゃトマトとは、どういう意味でしょうか?
- 溝江:
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かぼちゃのように大きい実だったんです。だから現場ではかぼちゃトマトと呼んでいました。かぼちゃのように大きいだけで、甘くないんです。本来、水も肥料もおさえて、ぎゅっとうまみと甘みの詰まった実に育てるのがうちのトマトなんです。それが、水分をたっぷり含んだ大きな実になってしまった。
- 崎永:
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本社の方では「おばけトマト」と呼んでいましたよ(笑)
- 溝江:
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トマトの品種は「ファースト」と呼ばれるもので、生命力が強く、すぐに大きく育ってしまう品種なんです。トマト界のじゃじゃ馬とも言われています。その名の通り、大きなじゃじゃ馬に育ってしまったわけです。
- 崎永:
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シーズンのはじめになると、できはじめのあまり甘くないトマトが10kg入りのコンテナで40ケースほど来るんです。今年も来たぞ…と。そんなたくさんの量、社員でもさばききれないですよね。
- 木下:
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それは売るのは大変だったでしょうね。
- 崎永:
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今のような甘さはないですが、普通のトマトより甘かったんです。だから、売れてはいたんです。
当時は、出来のいいトマトは都市部に送り、出来がいまいちなトマトは路上で安く販売されていました。販路が限られていたこともあって、昔は、島の人と東京の人にしか知られていないトマトだったんです。
もちろん、余ってしまいます。本社でも、これはなんとかしなければと、通常の業務をこなす一方、社員総出でトマトを持ってレストランや知り合いの店などを回り、販売をお願いしたり、料理に使ってもらえないか交渉したりしました。
私は主に長崎市内のレストランを回りました。イタリアンレストラン、洋食屋さん、カフェを手当たり次第に・・・。 - 溝江:
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本社の方で頑張ってくれているから、現場でもなんとかせんばと。ただ相手はトマト。じっとこらえて向き合うしかないんです。。
- 崎永:
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本当に、社員みんながトマトの営業部隊として頑張った時期です。ありがたいことです。
- 木下:
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私は事業が黒字転換しそうなタイミングで入社したので、それまでの苦労を経験していないんです。(今の話を聞いていると)なんだか申し訳ないですね。離島での農園経営はお金がかかるというのはわかります。トマトの出来が良くても悪くても、離島で農園を営むことそのものに費用がかかります。
お金がかかるというのは例えば運輸費でしょうか?
- 木下:
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そうですね。それもひとつです。高島には、農業に使える水がほとんど無いんです。島だから水はたくさんあるじゃないかと思われるかもしれませんが、海水は農業に使えません。
では、どうされているんですか?
- 木下:
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長崎市の水道水を使っています。水をおさえた農法ですが、農業で使用する水は大量ですので、費用はかかります。離島・高島だからこそ必要になる費用なので、経営的には「厳しい環境」といえると思います。また、燃料代が長崎市に比べてリッターあたり10円くらい高いのもあります。
- 溝江:
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わかりやすい例を出すと、車を納品したり車検に出したりするでしょう?すると、往復で5万円くらいはかかるんです。農業に必要な水や資材はもっと大量です。苗をいれるだけで10万円以上の運輸費がかかるのです。
- 崎永:
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だから、自社で資材関係を運べるのは、農園にとって大変なメリットなんですよ。どうしてもガソリン代は高くつきますが、海運会社が親会社であるというのは経営的に大きな助けになります。
それで崎永海運さんにトマト事業の引き受けの打診があったのでしょうか?
- 崎永:
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そうですね。もしかしたらそれも理由の一つだったかもしれません。